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ざっくり早わかり!弾道ミサイルと防衛システム - 火星12は撃ち落とせるか?

弾道ミサイルと迎撃システム

北朝鮮が9月15日6時57分頃、平壌から弾道ミサイル1発を東北東方向に発射しました。 8月末の発射に続き再び北海道上空を通過、襟裳岬の東約2200kmの太平洋上に落下し、 飛距離は過去最長の約3700kmに達しました。

日本政府は、この弾道ミサイルを中距離弾道ミサイル「火星12」の可能性が高いと発表しています。 政府は、全国瞬時警報システム(Jアラート)を通じ、北海道から長野までの十二道県で避難を呼びかけました。

この記事では、新聞等の情報の理解を促すために、弾道ミサイルとその防衛システムについてざっくりと 解説します。

弾道ミサイルとは何か?

そもそも弾道ミサイルとは何でしょうか。普段何げなく「ミサイル」という言葉も使いますが、意味は案外知らないものです。 こうした基本的なことから解説します。


弾道ミサイルは砲弾のように放物線を描いて飛ぶミサイルです。大砲から発射されるのではなく、 ロケット弾として発射されます。ミサイルとは誘導弾のことです。 弾道ミサイルは、誘導装置はありますが、ミサイル内部の装置が計画通りのコースを飛んでいるかを 検知して微調整するものです。

弾道ミサイルの種類

弾道ミサイルは、射程距離で4種類に区分します。

名称 英名 射程
大陸間弾道ミサイル (ICBM:Inter Continental Ballistic Missile) 6000km以上
中距離弾道ミサイル (IRBM:Intermediate-Range Ballistic Missile) 2000~6000km
準中距離弾道ミサイル (MRBM:Midium-Range Ballistic Missile) 800~2000km
短距離弾道ミサイル (SRBM:Short-Range Ballistic Missile) 800km以下

射程の区分は、世界共通の基準があるわけではありません。 米ロの戦略兵器制限条約では5500km以上をICBMとしていますが、国や書物によっても違いがあります。

弾道ミサイルの軌道

弾道ミサイルは、発射されると加速しながら上昇します。最初は垂直に打ち上げられます。 その理由は、早く空気のない大気圏外に出るためです。 高度約100kmの大気圏外に出たところで少し傾いて放物線弾道に入ります。

加速時間(ロケットの噴射時間)は、ほんの数分で全飛翔時間の1/5前後です。 この数分間に燃料を使い果たした1段目、2段目は切り離されて捨てられます。

ICBMのような長距離弾道ミサイルは、この加速段階で高度200~400km、距離は400~800kmに達します。

一部の近距離弾道ミサイルでは、ミサイル本体から弾頭を切り離さないものもありますが、 多くの弾道ミサイルは、ロケットの噴射が終了後、慣性で上昇して、放物線の頂点(ICBMなら高度1300km付近)に達する前に、 ミサイル本体から弾頭を放出します。

ロフト軌道とディプレスト軌道

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弾道の最高高度はICBMで約1300km、MRBMで約600kmです。 この高度は、そのロケットの推力でもっとも大きな射程を得られる弾道で発射された場合です。これを最小エネルギー軌道といいます。

普通は、この最小エネルギー軌道で発射されると考えられますが、 これよりも高い角度で打ち上げて、ほぼ真上から落とすロフト軌道と、低い弾道で飛ばすディプレスト軌道があります。 いずれも射程距離は犠牲になりますが、迎撃を難しくするという利点があります。

ロフト軌道で高く打ち上げられた弾頭は、高いところから落ちてくる分、速度が速くなり、落下角度も垂直に近いため 短時間で大気圏を通過して着弾します。着弾までの時間が短く迎撃が困難なのです。

ディプレスト軌道は、低い弾道をとるため、地球の丸みを利用して、レーダー探知を遅らせることができます。

弾頭は複数の場合もある

1発のミサイルに複数の弾頭が載っている場合もあります。 初期の弾道ミサイルは命中精度が低く数kmの誤差があったからです。 これをカバーするため、1つの目標に複数の弾頭を撃ち込む方法が考えられました。 これをMRV(Multiple Reentry Vehicle)といいます。

命中精度の向上に伴って、弾頭を別々の目標へ向かわせることができるようになりました。 これがMIRV(Multiple Independently-targetable Reentry Vehicle)です。 別々の目標に向かわせるといっても、極端に違う場所の目標には落とせません。 近隣の都市へ落とすくらいです。

敵を欺くデコイとは?

デコイとは、狩猟に使われる「つくり物の鳥」のことです。つくり物の鳥を置いておくと、 鳥が仲間がいると勘違いして近寄ってくるので、これを撃つ、という猟法です。 これが転じて、敵を欺くために作られた偽物を軍事用語でデコイと言うのです。

弾道ミサイルの弾頭のデコイ

弾道ミサイルの弾頭にもデコイがあります。先述のMIRVに搭載されているものです。 弾道ミサイルが頂点付近で弾頭を放出するとき、 デコイ(偽物)の弾頭を数多く放出して、レーダーや迎撃ミサイルを欺きます。

弾頭のデコイは風船のようなものですが、弾道の頂点付近の高度では空気抵抗がありません。 そのため軽いデコイでも実弾頭と同じ速度で落下します。

大気圏に入るとデコイの速度は遅くなり、本物の弾頭と見分けがつくようになります。 しかし大気圏に突入した頃には、着弾まで数分しか時間が残されていません。 特に、ロフト軌道で打ち上げられた場合は迎撃が困難です。 このとき、弾頭はマッハ20(秒速7000m以上)の速度で落下してきます。

核弾頭と爆発力

破壊力をあらわすTNTとは何でしょうか。キロトン、メガトンという単位についても確認しておきましょう。


ミサイルの弾頭として核爆弾が組み込まれると「核弾頭」と言います。

核爆弾の破壊力を表すのに「100キロトン(KT)」「1メガトン(MT)」といった数字が用いられます。 これは核爆弾が、TNT何トン分相当の爆発力を持っているかを表します。

TNTとは「トリ・ニトロ・トルエン」の略です。 砲弾や爆弾に使われる軍事用の爆薬には、TNTがもっとも広く使われるため、これを基準にしています。

キロは「1000」、メガは「100万」のことです。 破壊力1キロトンは、TNT爆薬1000トン相当の破壊力ということです。 同様に破壊力10メガトンは、TNT爆薬1000万トン相当の破壊力といえます。

1メガトンに破壊力はどのくらいか?

1メガトンの核爆弾が地表に近い空中で爆発した場合、地面に深さ30m、半径335mほどの穴ができます。 コンクリートの建物でも1.2km以内なら破壊され、一般の家屋は2.4km以内は全壊、9km以内は大きな損害を受けます。 10数kmでも窓ガラスが吹き飛ぶ破壊力があります。

弾道ミサイル迎撃ミサイル

ここからは発射された弾道ミサイルをどのように撃ち落とすか、迎撃のしかたについて解説します。北朝鮮の弾道ミサイルが日本本土を目標に 発射されたらどのように迎撃するのでしょうか。これについて解説します。


ICBMやMRBMといった弾道ミサイルを撃ち落とすミサイルが、弾道ミサイル迎撃ミサイルABM(Anti-Ballistic Missile)です。 かつては弾道ミサイル迎撃ミサイルは核弾頭付きの巨大なものが主流でしたが、 現在では核弾頭ではないABMを開発、配備されています。

射程の長いTHAADミサイルと射程の短いPAC3、イージス艦搭載のSM-3です。

弾道ミサイルを迎撃するには?

弾道ミサイルの迎撃には3段階ありますが、北朝鮮から日本に向けて発射されるミサイルの場合は、 中間段階での迎撃、終末段階の迎撃が主になります。上昇中のミサイルを迎撃するシステムは、 現在凍結されています。

  • 上昇中のミサイルを撃ち落とす
  • 中間段階で撃ち落とす
  • 終末段階で撃ち落とす

上昇中のミサイルを撃ち落とす

ボーイング747を改造したAL-1という飛行機がかつて米国にありました。 機種にレーザーガンを搭載し、発射直後の上昇中のミサイルを撃ち落とすものです。このシステムはABL(AirBorne Laser)といいます。

上昇中のミサイルであれば、分離した弾頭と違い的が大きく、破壊が比較的容易です。 しかし、このABLはミサイル迎撃実験に成功したものの配備されていません。

理由は、空気中で発射されたレーザーは減衰し、AL-1が飛ぶ1万数千kmくらいの高度では、 地球の丸さのために数百km先までしか探知できません。そのため、ミサイル基地の数百km以内に接近する必要が生じます。

また、いつ発射されるかわからない弾道ミサイルに備えて、24時間365日、飛行するのは現実的ではありません。 結局、実験は成功したもののABLを使った弾道ミサイル迎撃システムの開発は2011年に凍結されています。

中間段階で撃ち落とす

発射された弾道ミサイルがロケットの噴射を終了し、1段目、2段目を切り離して大気圏を飛翔後、 降下して大気圏に再突入する前の段階を中間段階といいます。

中間段階の飛翔時間は、ICBMのような長距離弾道ミサイルならば30分前後もあります。

この中間段階で迎撃するために米国が配備しているのがGBI(Ground Based Intercepter)ミサイルです。 敵のICBMの発射を探知して、飛翔コースを計算し、すぐに発射できれば、敵弾道ミサイルの弾道の頂点付近で破壊できます。

地上配備のGBIに対し、海上に配備されている迎撃ミサイルが、日本のイージス艦にも搭載されているSM-3です。 SM-3は比較的小型のミサイルなので、中間段階の迎撃といっても、その初期か終わり頃を狙うものです。

しかしながら、北朝鮮からディプレスト軌道で日本に向けて弾道ミサイルが発射された場合、弾道の最高速度が65~70km程度になり、 SM-3で迎撃するのは困難ではないか、との危惧もあります。

終末段階で撃ち落とす

日本のミサイル防衛システムでは、敵の弾道ミサイルを先述のイージス艦のSM-3が撃ち漏らし、 日本本土に弾道ミサイルが飛来した場合、終末段階でPAC-3ミサイルが迎撃することになります。

PAC-3は、直径25㎝、射程20kmの小さなミサイルです。PAC-3は、本来、都市などの地域を守るものではなく、 戦場に展開する陸軍部隊の防空用のものです。この射程の短さでは、弾道ミサイルから都市を確実に防衛できるかは疑問が残ります。

米国では終末段階迎撃用に、射程200kmのTHAADミサイルも配備しています。日本でも中間段階でSM-3が撃ち漏らせばTHAADミサイルが、 THAADミサイルが撃ち漏らせばPAC-3が、という三段構えが理想とされます。しかし現状の防衛予算ではTHAADの配備は難しいようです。

THAADミサイルはディプレスト軌道で発射された北朝鮮のミサイルを迎撃可能といわれています。 なぜか米軍は、このレーダーのみ日本に配置しています。

まとめ

弾道ミサイルと破壊力、その迎撃システムについて説明しました。 北朝鮮から発射された弾道ミサイルは、約7~8分で日本本土に着弾します。 中間段階はSM-3、終末段階はPAC-3で迎撃をしますが、撃ち漏らす可能性は否定できません。

挑発目的の発射実験と楽観することなく、報道など注視していきたいものです。

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