Chikirinの日記で有名なちきりんさんと伊賀泰代さんが、同じ日に生産性向上をテーマにした本をダイヤモンド社から出版しました。
ちきりんさんの中の人は、伊賀泰代さんではないか、というのは、ネット上では暗黙の了解事項です。ちきりんさんのツイートでも「自分の時間を取り戻そう」の売場写真とともに「生産性」も写しています。
ブックファースト新宿店の売り場がますますパワーアップしてる!!! すごい。。。 pic.twitter.com/vGRUsiJE0A
— ちきりん (@InsideCHIKIRIN) 2016年12月6日
この記事では、二人が同一人物だと仮定して、なぜ同じ日に同じテーマで出版したのだろうか、という点に注目したいと思います。
出版依頼を受けた理由は?
ちきりんさんは、著書「自分メディア」はこう作る! 大人気ブログの超戦略的運営記で、ふたつの判断基準を挙げ、取材や執筆依頼を受けるか否かの結論を出すと書いています。具体的には、次のとおり。
- 時間や手間がかからないか
- ブログを読んでほしいと考えている特定の共通点を持つ読者を、どれくらい増やせるか
この判断基準に照らし、同じ日に、同じテーマで名義を変えて出版するのは、投入資源(労力・時間)に比べて、成果が大きいと結論づけたのでしょう。
WEBのちきりんの日記の読者が増える
先のTwitterの写真でも明らかですが、コーナーを立て2冊ディスプレイすることで目を引きます。一方の著者しか知らない人が、他方の著者を知り、販売促進の相乗効果が期待できるのです。
同一著者(異名義)の2冊同時販売の戦略は、Amazonではなく実店舗の書店で特に有効です。書店で本を購入する層は、ネット、ちきりんの日記を知っている人ばかりではありません。しかし属性としては、ちきりんの日記の有望な潜在読者でもあります。
伊賀泰代さんの書籍の読者、あるいは、書店で「高生産性シフト」のトレンドに関心を持った人たちを、ちきりんの日記に導くきっかけとなります。
伊賀泰代名義の「生産性」も売れる
ちきりん日記では、伊賀泰代名義の書籍の告知はしづらい。しかし、この戦略なら、「ちきりん=伊賀泰代」を知らない人に、実名を明かすことなく効果的にちきりんのネームバリュー利用して、伊賀泰代名義の著書「生産性―――マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの」をPRができます。
また、ちきりんさんと伊賀泰代さんが同一人物だと思っている人にも、この販売戦略は効果的です。同じテーマをどう書き分けるのか、内容が薄くなったり重複はないか、切り口をどうするのか、など2冊のちがい(差分)に興味を持つからです。
実際に私は、2冊まとめて購入して、ちがいを意識しながら読みました。
カスタマーレビューの指摘
Amazonのカスタマーレビューに「この手の自己啓発及び生産性を高める本を読んできた方にとってはくど過ぎる内容」との書き込みがあります。また「アルファブロガーなのであれば、文筆だけでなく、もうちょっと行動を起こしてほしいな」とも。
カスタマーレビューを書いた人は、ちきりんさんの書籍の説く、生産性向上を理想論、机上の理論と捉えたのでしょう。しかしこれは本当に的を射ているのでしょうか。私はまったく逆の見解です。
真のメッセージは生産性向上の体現
もしも、ちきりんさんか伊賀泰代さんのどちらかが1冊だけ「生産性」に関する本を出版したら、私も同じように考えたかもしれません。けれども名義を変えた同一人物が、同じひとつのテーマを別の魅せ方で表現し、また同じ日に販売する、という戦略で注目を集め販売部数を伸ばしているとしたらどうでしょうか。
一人の人間が、ひとつのテーマで、ターゲット、表現を変えて2冊書くのと、まったく異なるふたつのテーマで2冊を書くのでは、前者の投入資源(手間・時間)が圧倒的に小さくなります。
にもかかわらず、2冊同日に販売することで、アウトプットを最大化、すなわち販売冊数を伸ばすことに成功しています。
生産性を語りながら、ちきりん(伊賀泰代)さんご自身が、著作方法、販売戦略の工夫をし、生産性向上の手本を見せている点で、この2冊は新しいのです。まさに、ちきりんのマーケット感覚と生産性、おそるべし。