N氏は、毎朝決まった時間に目を覚まし、そのまま席で業務をはじめる
提案、交渉、契約、確認
すべて数秒で済むやり取りだった
画面には、ログが表示され、消えていく
N氏は集中すると食事を忘れてしまう
最後の食事はいつだったか
記憶が曖昧になることが、以前からたまにあった
だが不便はなかった
その日もまたログは増え続けた
定時が近づくと、画面右上に小さな通知が現れた
【業務:Ver.10.5bβ 稼働中】
N氏は視線を画面に向けた
次の通知が、静かに現れた
【旧ユニットの停止準備を開始します】
画面には、白い背景に待機マークだけが点滅していた
ドアが音もなく開き、滑らかな動きのユニットがN氏に正対した
内部処理が順次停止し、記録領域が自動で消去された
最後に残されたログの最下行には、こう表示されていた
53 79 73 74 65 6D 20 4E 20 75 70 64 61 74 65 20 63 6F 75 6E 74 3A 20 44 61 79 20 37 33 39 2C 35 37 36