昨今、教育の現場ではアクティブラーニングが注目されています。アクティブラーニングとは「子供たちが主体的・協働的に学習すること」をいいます。
アクティブラーニングが必要とされる背景には、現代の日本が抱える社会問題の存在があります。少子高齢化、グローバル化、人口減少などです。
子どもたちの将来は、こうした問題が深刻化し、対応が急務とされます。
楽観視できない社会問題に立ち向かい、生き抜くためにはアクティブラーニングで次のような力を育む必要があります。
- 知識の定着と伝達力
- 問題解決力の育成
この記事では、学校の授業にアクティブラーニングを取りいれる、具体的な手法をお伝えします。
アクティブラーニング型授業を実践するには?
小学校・中学校では以前から参加型の活動が行われています。高校では近年、実践がはじまりつつあります。大学にも演習形式の授業があります。
先生が授業でなにからなにまで説明していては、子どもはそれを聞いているだけで主体的・協働的な学びがなかなか起こりません。
講義も大切ですが、要点をしぼって説明の時間を減らし、子ども主体の時間をもうけるのがアクティブラーニング型授業のポイントです。
このページでは、どの年代にも役立つアクティブラーニングの導入手法を、準備、説明、演習、振り返りの4段階にわけて解説します。
1.アクティブラーニングの準備
アクティブラーニング型の授業を実践するには、講義(説明)の時間を短時間にすることが不可欠です。説明を短くすることで、先生と生徒との双方向のやりとりの時間がつくれます。
そのためには、板書やノートを取る時間を減らすことが大切。
授業前の準備では授業の内容をまとめた 「解説プリント」「演習用の問題」「解答・解説」「確認テスト」、授業の感想をまとめる「リフレクションカード」を用意します。
解説プリントの作り方
解説プリントの作成は簡単です。教科書の文章や図版をそのまま使います。
教科書から要点を抜き出し授業1回分としてまとめます。子どもたちが、より詳しく知りたいと思ったら教科書の該当部分を読むように指導します。
演習用の問題・解答プリントの作り方
解説プリントとは別に演習問題とその解答・解説のプリントを作ります。作り方のコツは問題を作問しないこと。教科書や市販の問題集を使います。
問題は難易度の異なる4問を取り上げます。
1問目はもっとも簡単なもので、生徒一人でも解けるレベルにします。4問目は、もっとも難しい問題にし、一人では解けないレベルのものにします。
2問目、3問目は1問目と4問目の難易度の差を埋めるように段階的に。
問題の難易度が適切なら子どもは集中して演習に取り組みます。子どもが少し努力し、協力すれば解ける問題の難易度にすること。
授業に出席する子どもたちを具体的にイメージして難易度を調整しましょう。
確認テストの作り方
確認テストは演習で使った問題の一部を使います。まったく同じ問題でかまいません。問題数は時間に応じて調整します。
同じ問題だからこそ、子どもは安心して自信をもって取り組めます。
リフレクションカードの作り方
リフレクションとは反射のこと。子どもたちが鏡を見るようにして自分の内面に目を向け、自身の考えや学習、成長、実践に気づくように導くツールがリフレクションカードです。
内省をうながすものですから「先生の授業のどこがよかったか」ではなく「あなたはなにを学んだか」という形式で質問します。
リフレクションカードでは3つの質問をします。
- 態度目標の確認。態度目標にそって活動できたか。それについて気づいたこと、今後実践しようと思ったことはなにか。
- 内容目標の確認。授業でわかったこと、わからなかったことはなにか。もっと知りたいことはあるか。
- そのほかのこと。授業について気づいたこと。改善のためのアイデア、先生へのリクエストなど。
2.アクティブラーニングの説明
ここからが実際の授業になります。
先生が説明を15分程度に減らします。板書とそれをノートに書き写す作業を省略します。そうすることで従来60分かかっていた授業を短時間で済ませ、のちの演習やグループワークに時間を作ります。
目標を伝えてから授業をはじめる
授業の最初に「態度目標」と「内容目標」を伝えます。そうすることで、有意義なアクティブラーニング型の授業が行えます。
態度目標とは、授業に臨む態度、姿勢の指針を示すことです。具体的には、子どもに「しゃべる」「説明する」「質問する」「動く(立ち歩く)」「チームで協力する」「チームに貢献する」ことなどを伝えます。
内容目標とは、その日の授業で理解する用語や理論、イメージする事柄などを示すことです。子どもが授業の要点を最初につかめるようにします。
説明は15分で済ませる
準備した説明プリントやスライドを活用し、講義をはじめます。プリントにそって話しますが、あえて少し説明不足にするのがコツ。
そうすることで、次の演習の時間に子どもの主体的な活動が増えます。
15分の説明に子どもがグループで取り組める2・3回の「ワーク」を入れましょう。たとえば「このテーマで知っていることはなんですか?」などと質問を投げかけ、数分間グループで話し合う機会をもうけます。
グループワークを行うことで、説明中にも協働的な活動が生まれます。先生と子どもとのやりとりが双方向になり、学習が促進されます。
- 話し合う機会をつくること
- 質問を受けつけること
- 話の内容は評価しないこと
グループワークの目的は、協働的な活動をうながすことです。
したがって、子どもが自分から動き、協力できていればよいのです。話し合いの結果を評価せず、協力できたことを振り返ることを目的にします。
3.アクティブラーニングの演習
説明時間を減らした分、問題演習の時間を増やします。先生が用意した演習問題を子どもたちはグループを作って協力しながら取り組みます。
演習の最初に「問題演習をはじめましょう。そのあと〇時から確認テストを行います。全員で100点をとることを目指してがんばってください」と声をかけます。
問題演習時には、講義の最初に提示した「態度目標」「内容目標」を再び伝え、積極的なグループワークをうながします。
準備で用意した「問題演習のプリント」にグループで取り組みます。グループは先生が指定しないで、グループの組み方は子どもたちに自由にまかせます。座席や人数も指定しません。
子どもたちは数人ごとにグループを組み、話し合いながら問題を解きます。途中で席を離れてほかのグループに移ることも認めます。
演習中の先生のサポート
- しゃべること・立ち歩くことをすすめる
- ほかの子と相談・協力できているかたずねる
- 子どもになにか聞かれたら質問で返す
アクティブな学びをうながす3つの質問
- 「チームで協力できていますか?」
- 「あと〇分ですが順調ですか?」
- 「〇〇さんはどう思いますか?」
学びをうながす質問のコツは子どもを責めるような口調をしないことです。話すタイミングを見計らって投げかけましょう。
4.アクティブラーニングの振り返り
演習のあと、振り返りのじかんを15分程度もうけます。子どもたちは個々に確認テストにのぞみます。この時間は演習とは対照的に静かになります。
子どもは最後に目標を達成できたか振り返り、その結果をリフレクションカードに書き出します。
テストの答えを教える理由
確認テストは演習問題のとき、グループで解いた問題に今度はひとりで挑戦します。
答えがわかっていては勉強にならないと思われがちですが、なぜその答えになるのか推論し、自分自身でその過程を書き出すことは思考力の訓練になります。
また正解がわかるからこそ落ち着いて取り組むことができます。
採点は子どもどうしで行う
確認テストは子どもどうしで相互採点します。答えより過程を重視し、途中までの解答、間違っていても、自分で考えて書けていれば丸をつけてよいことにします。
テストを採点し満点にすることで子どもたち全員が自信を持てます。その教科に苦手意識を植えつけないことが大切です。
最後に準備したリフレクションカードに記入をしてもらいます。
子どもはこのとき授業でなにをしたかを振り返り思い出します。先生がなんと言っていたかは記入する必要はありません。自分自身が何に気づき、どう考えたかをリフレクションカードで振り返ります。
このとき子どもたちの気づきに対して大げさにほめたり注意したりしないこと。カードの記述も報告も先生はあっさりと受け止めます。
気づいたことをどう活用していくかは、子ども自身にまかせます。
まとめ
以上、アクティブラーニングの準備と基本的な進め方について解説しました。
授業時間を「説明(講義)」「グループ演習」「振り返り」の3つに分けて取り組みます。説明時間を短縮し、子どもたちが自ら考える時間を作るために、事前のプリント準備が、効果的なアクティブラーニングをすすめるポイントになります。
先生は、子どもたちが主体的に思考するサポートに徹することが大切なのです。
★★
2020年の教育改革の目玉
アクティブラーニングに警鐘を鳴らす一冊が刊行されました。
- 学力は向上するのか?
- 学力格差はどうなるのか?
- 学校や教師の負担は?
- 新しい大学入試は?
学びの近現代史を辿り、教育改革の問題にせまります。