新聞と広告の向こう側

新聞のつくり方・広告を読み解く視点

新聞の公称部数が激減。実売部数と押し紙をめぐる真相とは?

若者の活字離れが問題になっていますが、それでも数十万部の雑誌は多数あり、新聞も数百万部の大部数を未だ誇っています。 これなら紙媒体は、まだまだ大丈夫と言いたいところですが、この「発行部数」があてになりません。

なぜ、発行部数があてにならないか?
このエントリでは「部数」とは何か、その正体について説明します。


発行部数は実売部数ではない

というのも、発行部数は版元が「発行」した部数にすぎず、実際に購読された「実売部数」ではないからです。

そこに出版業界独特の流通システムがからんで、数字の信憑性をあやしくしています。 ところで、雑誌には3通りの「部数」が存在するのをあなたはご存知でしょうか。


雑誌の3通りの部数とは?

公称部数

公称部数とは、一般に公開される部数のことで、版元の出版社の自己申告による「自称」の部数です。 一説によると実売部数を何倍も水増しして公表しているところもあるといいます。


印刷証明付発行部数

印刷証明付発行部数とは、実際に印刷された部数を指します。

日本雑誌協会が印刷工業会を通して各雑誌の印刷部数データを集計し、年間の平均値を公表しているものです。 「公称」よりは客観性が高いですが、ここでネックになるのは「返品率」です。

書店などで売れ残った雑誌は、版元に返品されるが、その割合は印刷部数の30~40%ともいわれており、 印刷された部数と実売部数とは大きな開きがある、と推測されます。


平均実売部数

平均実売部数とは、第三者機関の一般社団法人日本ABC協会が、各版元に立ち入り調査を行って調べた実売部数です。

しかし、参加している雑誌は少なく、出版社の多くは、実売部数の開示には消極的です。 その理由は、雑誌の利益が広告収入に支えられていることにあります。

部数が少ないと宣伝効果が期待できないとみなされて、広告主が離れてしまうからです。


新聞の押し紙の正体

新聞は、駅、コンビニなどの直売もありますが、販売店から契約世帯に配達されるものがほとんどです。 したがって、新聞社から各販売店に送られた部数を合計すれば、正確な発行部数がわかるはずです。

しかし、実際には販売店に、契約数以上の新聞がかつては届けられていた、といわれています。 新聞は返品がきかないので、余分に送られてきた新聞は、配達されないまま残紙業者に買い取ってもらうことになります。

昔はこれが「押し紙」として問題視されていました。新聞業界では、押し紙とは言わず「予備紙」というのが慣例です。 配達の際のロスを補う予備という建前です。


押し紙で得したのは新聞社だけ!?

押し紙というと、新聞社が販売店に強引に新聞を買い取らせている印象を受けますが、実際はそうではありません。 販売店にも押し紙を受け入れる動機があったからです。

新聞には「折込チラシ」が入ります。最近は減りましたが昔は毎日、各世帯の新聞に数十枚の折込チラシが入っていました。 折込チラシは新聞販売店の収益源のひとつです。1枚チラシを折り込むごとに3円前後の折込料が販売店の収入になります。

たとえば、折込料3円のチラシが毎日1世帯あたり20枚入るとしたら、新聞1部あたりの折込収入は、1ヵ月で1800円(3円×20枚×30日)になります。 もし新聞の1部の仕入れ価格がこの折込収入より少ないとしたらどうでしょうか?

仮に新聞社から1部を1500円で販売店が仕入れていたら、300円ずつ利益が出る計算になります。 折込チラシが全盛の時代には、新聞社だけでなく販売店にも新聞部数をかさ増しして表示するメリットがあったのです。


広告主の自衛策

こうした実情を知ってか知らずか、広告主も対応策を講じます。新聞販売店の公表部数より10%程度少ない部数のチラシを販売店に納品するようになったのです。

公表部数が実売部数であれば、その販売店の契約読者の1割に、その広告主のチラシが届かないことになります。 しかし実際には、該当する販売店の契約読者すべてにチラシが届くという不思議なことが起こり得ました。


折込チラシの減少がもたらしたもの

新聞社と販売店の双方にメリットのあった公表部数の水増しも、折込チラシの減少によって転機を迎えます。 折込チラシの収入の減少で、新聞の仕入れ代金を賄えなくなったからです。販売店に負担を強いる、事実上の「押し紙」になりました。

ここ数年、新聞の部数が大幅に減少しています。これは新聞購読者の減少だけが理由ではありません。 新聞社と販売店にメリットのあった水増し部数が、折込収入が減少に伴い販売店の負担になったからです。

そのため公表部数改定時に、実売部数に近づける調整を段階的にすすめています。つまり、折込チラシの減少は、 公表部数を実売部数に近づける要因になっているのです。