人の噂も75日という諺があります。 これは、よい噂も悪い噂も75日経てば自然に世間の話題から消えていくという意味です。 では、なぜ噂は「75日」立てば消えていくのでしょうか。
この75日という数字には根拠があるのでしょうか?
75日の根拠は何か
いくつか説がありますが有力な伝承を2つ紹介します。
- 初物を食べると75日長生きできる
- 産婦の忌みが明けるのが75日
初物で長生き
季節、季節の初物を食べることで人は新たに生きながらえるためのエネルギーを得ることができると 信じられていました。その日数が75日間といわれます。
初物を食べた季節の分だけ長生きできると考えられていたのです。
産後の忌み明けが75日
大阪府下のある村では、産後の禁忌を「オヤユミ(親忌み)」と称して、 それが明けるのが75日だといいます。それまでは神社に参ったり、祝いの場に出席したりするのは遠慮すべきだと伝えています。
これら2つの伝承からわかるのは、人間の体にプラスになる場合は75日分余分に生かす力になり、出産という体の変化から回復するには75日かかると捉えられていたのです。
日本の季節感に裏づけられた日数
75日は約2ヵ月半を指します。四季の移ろいを重視する日本の気候風土においては、 2ヵ月半経つと季節は確実に移り変わっていきます。 そこから連想されたのが、人の噂が消えていく日数だったのでしょう。
季節が移り変わるように、巷に流布した噂も75日も経てば自然と人々の話題から過ぎ去っていくと考えられたのです。
類義のことわざ
人の噂も75日に似たことわざには、次のようなものがあります。
- 善きも悪しきも75日
- 世の取り沙汰も75日
いずれも「人の噂も75日」と同義で、いいことも悪いことも世間が話題にするのは75日、ほんの一季節に過ぎないという意味です。
鎌倉時代には「人上は百日」と表現
鎌倉時代の成立した「源平盛衰記」には「人上は百日こそ申なれ」と記されています。
鎌倉時代は、75日ではなく「人の噂も100日」と表現したのですね。
100日に方が区切りが良い感じがしますが、ことわざや慣用句は語感、実際に口にしたときの響きが重要です。
時代を経て、語感の良い「75日」に変化していったのかもしれません。
江戸時代後期には「人の噂も七十五日」が定着
1833年に発刊された為永春水の人情本「春色辰巳園に「人の噂も七十五日、過ぎた昔は兎も角も」の記載があります。
人情本は庶民の色恋をテーマにした読み物で、春色辰巳園では、米八と仇吉の恋争いと和解を描いた物語です。
1833年といえば天保の大飢饉の始まった頃です。
江戸時代後期には、周知のことわざとして「人の噂も七十五日」が定着していたといえますね。
人の噂も75日を英語で表現
人の噂も75日に該当する英語のことわざは、上の表記です。意味は「驚きが続くのは9日間まで」。日本と違いかなり短いですね。
9日間の由来は
- 1600年頃に書かれたイギリスの小説”Nine Days Wonder”から
- カトリック教会では9日が区切りの祭事が多いから
- 生まれた子犬が目をあけるまで9日かかるから
A wonder lasts nine days, and then the pappy's eyes are open. 「驚きは9日間続き、そして子犬の目が開く」という言い回しもあるそうです。
尚、日本語からの英訳は次のとおりです。
- Gossip lasts just 75 days
- A rumor only lasts seventy-five days.
まとめ
人の噂も七十五日の根拠は
- 初物を食べると75日長生きできる
- 産婦の忌みが明けるのが75日
- 日本の季節の移り変わる日数
これら3つが代表的なものです。
また、鎌倉時代には「人上は百日」と表現され、江戸時代後期には現在の「人の噂も七十五日」が定着したと考えられます。
英語圏にことわざでは”A wonder lasts but nine days.”があたります。訳は「驚きが続くのは9日間まで」。文化の違いか75日に比べるとかなり短いですね。